お客様から、「どこかいい会社を知らない?」と聞かれました。頭に浮かんだのは、付き合いのある会社の担当者です。名刺をスマホで撮って、そのまま送ってしまおうか。それとも、もらったメールを転送してしまおうか。紹介の場面で、手が止まる瞬間です。
実は、会社どうしの付き合いでも、担当者の氏名と連絡先は個人情報です。名刺を表計算ソフトなどで整理していれば、それを別の会社に渡すことは、個人情報保護法でいう「第三者提供」にあたります。原則は、渡す前に本人の同意が必要です。同意は、口頭やメールでも取れます。
この記事では、同意の取り方と一言の例文、記録が要る場合と要らない場合を、仮の例で整理します。個人情報保護委員会のガイドラインに示されている考え方にもとづいた、2026年10月時点の一般的な話です。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論:渡す前に「誰に、何を、何のために」を一言聞く
答えを先に並べます。
- 担当者の氏名、会社名、メールアドレスの組み合わせは、個人情報です。いっぽう、会社そのものの情報(会社名や代表電話)は、個人情報にあたりません
- 名刺をパソコンの表計算ソフトなどに入れて整理していると、「個人情報データベース等」にあたる例として、ガイドラインに挙がっています。その中の情報が「個人データ」です
- 個人データを別の会社に渡すときは、原則として、あらかじめ本人の同意が必要です(個人情報保護法第27条第1項)。従業員3人の会社でも同じです
- 同意の取り方は、口頭、メール、書面などです。ガイドラインの事例にも、口頭の意思表示とメールの受信が挙がっています
- 同意をもらうときは、渡す相手、渡す内容、渡す目的を、本人が判断できる程度に示します
「紹介してほしい」と頼んできたお客様の連絡先を、お客様の望みどおりに伝える形なら、聞き方さえ整えておけば、むずかしくありません。
会社のお客様でも、担当者の連絡先は個人情報です
「相手は会社だから、個人情報は関係ない」と考えがちです。ここに落とし穴があります。ガイドラインは、法人そのものに関する情報は個人情報にあたらないとしたうえで、役員や従業員に関する情報は個人情報にあたる、と書いています。
- 個人情報にあたらないもの:会社名、代表電話、会社として公開している問い合わせ窓口
- 個人情報にあたるもの:「○○社の△△さんのメールアドレス」のように、特定の人を指す情報
どこから「個人データ」になるのかも、整理しておきます。従業者が名刺の情報を業務用のパソコンの表計算ソフトなどで入力して整理している場合は、「個人情報データベース等」にあたる例です。いっぽう、名刺入れに入れて、他人には容易に検索できない独自の分け方で並べているだけなら、あたらない例とされています。
ただし、「うちは紙の名刺だけだから大丈夫」と言い切るのは早いです。名刺をアプリに取り込んでいれば、話が変わる可能性があります。また、渡す側が気をつけるのは、法律だけではありません。連絡先を渡された本人の側から見れば、断りなく自分の連絡先が動いた、という事実が残ります。
もうひとつ、小さな会社も対象です。個人情報データベース等を事業に使っていれば、人数の多さは関係なく、個人情報取扱事業者にあたります。個人事業主も同じです。
仮の例で見る:頼まれた紹介と、自社の都合の紹介
従業員3人のデザイン会社(仮)の社長が、お客様の飲食店の店長(仮)から、「予約システムを入れたい。いい会社を知らない?」と相談された場面で考えます。紹介先は、予約システムを売る会社の担当者(仮)です。
ケース1:お客様に頼まれた紹介
社長が店長に聞きます。「予約システムの会社の担当の方に、店長のお名前とメールアドレスをお伝えして、ご連絡をもらってもいいですか」。店長がメールで「お願いします」と返せば、同意を得た形になります。
ガイドラインの記録義務の部分に、近い事例が載っています。顧客から修理の依頼を受けた事業者が、顧客の同意を得たうえで、顧客に代わって氏名や連絡先を提携先の修理業者に伝える場合です。この形は「本人に代わって提供」にあたるとされ、渡す側にも受け取る側にも、確認・記録の義務は適用されないと示されています。ただし、あたるかどうかは、本人が提供を具体的に特定できているかなどを見て、総合的に決まります。
ケース2:自社の都合の紹介
提携先の予約システム会社から「お客様を紹介してほしい」と頼まれて、社長が、お客様30社ぶんの担当者の連絡先を渡そうとします。お客様の誰かが頼んだわけではありません。自社の事情で、第三者に渡す形です。
- ひとりずつ、同意を得る必要があります
- 「本人に代わって」の形とは言いにくいので、記録を残す対象になると考えられます
- 記録する内容は、同意を得ている旨、渡した相手の名称、本人の氏名、渡した項目です
- 保存の期間は、原則として3年です
同じ「紹介」でも、誰の頼みで動くかで、手間が大きく変わります。
紹介する側とされる側の、信用の貸し借りについては、こちらの記事にまとめています。
紹介営業の型。信用を借りる側が守る5つと、頼む前にそろえる3点セット【保存版】
紹介のつなぎ方:3パターンと、一言の例文
連絡先を渡す形は、大きく3つに分かれます。
- 1先に聞いてから、連絡先を伝える:お客様に同意をもらってから、紹介先に連絡先を伝えます。同意の返信メールは、残しておきます
- 2双方に聞いてから、紹介メールで引き合わせる:お客様と紹介先の両方に同意をもらったうえで、同じメールに入れて、あいさつをつなぎます。どちらかの同意が抜けたまま、宛先にアドレスを並べるのは避けます
- 3会社の窓口だけ伝える:紹介先の会社名と、会社として公開している窓口だけを伝えて、お客様から連絡してもらいます。担当者の個人名を出さないので、個人データを渡す場面を避けられます
口頭でもメールでも使える、一言の例文です。
「○○社の△△さんに、□□さんのお名前とメールアドレスをお伝えして、予約システムのご相談でご連絡してもらってもいいですか」
この1文に、誰に(○○社の△△さん)、何を(お名前とメールアドレス)、何のために(予約システムの相談)の3つが入っています。同意は、本人の承諾する旨の意思表示を、事業者が認識することです。返事がないのを同意とみなす形は、避けたほうが安全です。
例外・注意:ここで足をすくわれます
次の6点は、見落としやすいところです。
- 「お客様のためになるから」は、同意なしで渡してよい理由になりません:同意が不要なのは、法令に基づく場合など、法第27条第1項に挙がった限られた場合です
- 提供先の名前まで言うかどうか:個人情報保護委員会のFAQ(問7-9)では、提供先をひとつずつ特定して示すことまでは求められないものの、想定される提供先の範囲や属性を示すことは望ましいとされています。紹介では、会社名を伝えるほうが自然です
- 受け取った側にも宿題があります:紹介で連絡先を受け取ったら、利用目的を公表しているか、取得後すみやかに本人へ通知するか公表する必要があります(法第21条第1項)。最初の連絡では、「○○さんのご紹介で」と、連絡の目的を伝えておきます
- 記録を逃れるための小分けは認められません:名刺1枚のコピーを渡すだけなら、受け取る側が確認・記録の義務を負わない例が挙がっています。ただし、本来は個人データなのに、義務を免れる目的でわざと分けて渡す行為は、法の潜脱とされています
- 紹介を商売にするなら、利用目的に書きます:あらかじめ、個人情報を第三者に提供することを想定しているなら、利用目的に、その旨を特定する必要があります。
- 法改正が控えています:2026年7月10日に、個人情報保護法等の一部を改正する法律が成立しました。施行は、原則として公布から2年を超えない範囲とされています。この記事は、2026年10月時点でガイドラインに示されている考え方で書いています
迷う場面は、弁護士などの専門家や、個人情報保護委員会の相談窓口に確認してください。
今日からできる最初の一歩
スマホのメモに、さきほどの一言の例文を1つ登録します。「誰に、何を、何のために」を入れて、相手の名前の部分だけを書き換えれば、30秒で聞けます。
紹介を頼まれたときは、まず、その一言を送ります。同意の返事が来てから、連絡先を渡します。この順番を決めておけば、紹介を頼まれるたびに悩む時間が、なくなります。
名刺を1,000枚以上配っても、売上がほぼゼロだった時期があります。連絡先は、持っているだけでは売上になりません。聞いて、つないで、はじめて動き出します。名刺から会いたい人を選ぶ考え方は、こちらの記事にあります。
名刺1000枚超で売上ほぼゼロだった私が、会いたい1人を決めて通う営業に変えた型
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):個人情報保護委員会、個人情報保護委員会(2)、個人情報保護委員会(3)、個人情報保護委員会(4)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。