代理店手数料のインボイスで、一度は立ち止まる社長は少なくありません。副業で売ってくれている代理店さんに、請求書の登録番号を聞いてみたら、「インボイスは登録していません」と返ってきた場面です。このまま、いつもの手数料を払っていいのでしょうか。
実は、払うこと自体は問題ありません。ただ、払う会社が消費税を計算するとき、手数料にふくまれる消費税を全額は引けなくなっています。引ける割合は、2026年9月までが80%、2026年10月からは70%です。さらに、差額が惜しくて「登録しないなら手数料を下げます」と一方的に言うと、独占禁止法の問題になるおそれがあります。
この記事では、代理店手数料のインボイスについて、仮の数字で控除の差を計算して、手数料の払い方の手順と、減額の話をするときの線引きを整理します。2026年10月時点の、一般的な話です。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
代理店手数料のインボイス、先に結論:未登録でも消費税の70%まで引ける
まず、答えを先に並べます。
- 前提:手数料を払う会社が、消費税の課税事業者で、払った消費税を差し引く方法(仕入税額控除)で計算している場合の話です
- 代理店がインボイス発行事業者(登録事業者)なら、登録番号のある請求書などを保存して、消費税を引けます
- 代理店が登録していない(免税事業者など)場合は、原則として引けません。ただし経過措置で、一定の請求書などと帳簿を保存していれば、一部を引けます
- 登録するかどうかは、代理店が決めることです。登録を求めること自体は問題になりませんが、応じないからと一方的に減額したり、打ち切ったりすると、問題になるおそれがあります
経過措置の割合は、国税庁の案内では次のとおりです。令和8年度の税制改正で期限が2年延びて、割合が見直されました。
- 2023年10月1日から2026年9月30日まで:80%
- 2026年10月1日から2028年9月30日まで:70%
- 2028年10月1日から2030年9月30日まで:50%
- 2030年10月1日から2031年9月30日まで:30%
- 2031年10月1日以降:引けません
なお、改正の前は、2026年10月から3年間は50%、その後は0%の予定でした。古い解説を見て50%で試算していた会社は、数字を見直しておきましょう。
割合を決めるのは「完了した日」
割合を決めるのは、手数料を払った日ではありません。役務の提供を受けた場合は、約した役務の全部が完了した日で決まります。たとえば、9月に始まった役務が10月20日に完了して、10月31日に払ったなら、70%です。
代理店手数料のインボイスを、仮の数字で見る:副業の代理店5人に払う会社
従業員3人の雑貨メーカー(仮)が、副業の代理店5人に、成約ごとの手数料を払っているとします。5人とも、インボイスの登録はしていません。数字はすべて説明用の仮のものです。
- 手数料:1人あたり月に税込11万円(税抜10万円と、消費税1万円)
- メーカーは、消費税の課税事業者で、原則どおりの方法で計算している(課税売上が中心の会社を想定した、単純化した計算です)
1人の1か月ぶんの消費税を、割合ごとに見てみます。
- 1消費税の額:11万円×10/110=1万円
- 2登録している代理店なら:1万円を引けます
- 3登録なしで70%なら:7,000円を引けます。引けない3,000円は、メーカーが納める消費税に回ります
- 45人で12か月なら:3,000円×5人×12か月=18万円が、引けない消費税です
- 52028年10月から50%になると:1人あたり月5,000円、5人で年30万円が引けません
- 62030年10月から30%になると:1人あたり月7,000円、5人で年42万円が引けません
引けない差額を誰が負うか
70%の段階では、引けない額は、税込の手数料の3%弱です。大きな金額ではないと感じるかもしれません。ただ、割合は年々下がっていきます。つまり、代理店を増やすほど、足し算で効いてきます。
ここで見てほしいのは、引けない差額を誰が負うか、という点です。会社が負うのか、代理店に負わせるのか。後者を選ぶときに、次の線引きが出てきます。
代理店手数料のインボイス、払い方の4つの手順
登録していない代理店への手数料を、経過措置で処理する流れです。会計ソフトの設定や、帳簿のつけ方は、顧問税理士と一緒に確認してください。
- 1代理店ごとに、登録番号があるかを確認します。請求書や支払通知書に番号が書かれているかが目安で、番号は国税庁の公表サイトでも調べられます
- 2登録していない代理店の分は、区分記載請求書等と同様の事項がある書類を保存します。作成者の氏名または名称、取引の年月日、内容、税率ごとの税込合計、受け取る事業者の名称です。足りない記載は、一定の場合に、受け取った側が追記して保存できます
- 3帳簿に、経過措置の適用を受ける課税仕入れであることを書きます。国税庁の例は「80%控除対象」「免」などです。割合は時期で変わるので、会計ソフトの設定を10月で更新しておきます
- 4手数料の明細は、払う側が支払通知書(仕入明細書)として作る形が多いです。登録している代理店の分は、売手の登録番号などを載せて、代理店の確認(署名、メールの了承の返信など)を受ければ、請求書の代わりに保存できます
手数料の発生条件や、成果の数え方を文字にしておく方法は、こちらの記事にあります。
個人の営業パートナーに頼む前に。成果の定義を文字にする保存版チェック
また、毎月続く手数料のように、役務の「完了日」がはっきりしないものは、完了日の考え方で割合が変わる可能性があります。契約の内容によるので、迷うときは顧問税理士に確認しましょう。
例外・注意:代理店手数料のインボイスで、減額の話は危ない
差額が気になるのは当然です。ただし、公正取引委員会などの質疑応答集(令和8年1月30日の改正を含む)には、はっきりした線が引かれています。
- 登録を求めること自体は、独占禁止法上、問題になりません
- 要請にとどまらず、「応じなければ手数料を下げる」「取引をやめる」と一方的に通告すると、独占禁止法上、問題になるおそれがあります
- 話し合って、双方が納得して手数料を決めたなら、結果的に下がっても、独占禁止法上は問題になりません
- 代理店が手数料の維持を求めているのに、理由を書面やメールで示さずに下げるのも、問題になるおそれがあります
- 形だけの協議で、買い手の都合だけで著しく低い額にして、代理店が仕入れで払った消費税額さえ払えない水準にすると、優越的地位の濫用として問題になります
優越的地位と、逆の場面
この考え方は、買い手が相手より優越した地位にあることが前提です。副業の個人から見ると、手数料を払ってくれる会社は、立場が強く見えることがあります。自社は小さいから関係ない、と決めつけないほうが安全です。取引の内容によっては、取適法(中小受託取引適正化法)の対象になる場合もあり、その場合は買いたたきや代金減額の禁止も関わってきます。
一方、逆の場面もあります。代理店が登録して課税事業者になったのに、納める消費税の負担を話し合わずに、手数料を据え置いたままにすることも、問題になるおそれがあるとされています。
簡易課税と少額特例
このほか、見落としやすい点が2つあります。
- 簡易課税制度で消費税を計算している会社は、払った手数料の実額から控除額を出す方法ではありません。計算の仕組みが違うので、この記事の計算例はそのまま使えません
- 1万円未満の課税仕入れについては、少額特例という別の仕組みがあります(2029年9月30日まで)。使えるのは一定規模以下の事業者に限られ、数え方の細かい点は国税庁の案内で確認が必要です
契約書には、次の4点を書いておくと、あとで揉めません。
- 手数料率は、税抜か税込か
- 登録番号の届け出と、登録や取消があったときの連絡
- 支払通知書を出す側と、確認の方法
- 登録の有無で手数料を変えるなら、その理由、計算、変える時期
契約の型ごとの違いを知っておきたいときは、こちらの記事も役に立ちます。
副業の営業マン300人を集めて、動いたのは10人。代理店を持つ前の3条件
代理店手数料のインボイスに備える、今日からできる最初の一歩
まず、代理店の一覧に、「登録番号」「登録の有無」「手数料の締め日」の3列を足します。そうすれば、控除の計算に必要な材料は、そろいます。
なお、一覧は、全員ぶんをいきなり作らなくて大丈夫です。手数料を払う相手は、登録した人全員ではなく、実際に動いてくれた一部の人です。私が副業の営業マンを約300人集めたときも、実際に動いたのは約10人でした。まず、先月手数料を払った人から埋めてください。
手数料を、いつ、いくら、どんな書類で払うのか。この3つに答えられると、代理店にも説明しやすくなります。売ってもらう関係は、お金の話が明るいほど続きやすくなります。
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運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):国税庁、国税庁(2)、国税庁(3)、国税庁(4)、公正取引委員会
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。