販売奨励金は交際費になるのか。11月に入ると、代理店向けの「年末キャンペーン」を考え始める会社が増えます。12月の締めまでに一定の数を売ってくれた代理店には報奨金。いちばん売ってくれた代理店は温泉旅行にご招待。営業会議では盛り上がります。ところが、経理に回した瞬間に「これ、全部交際費になりませんか?」と聞かれて、話が止まります。
じつは、代理店へのごほうびは、渡し方によって税金の扱いが変わります。国税庁の通達では、販売促進のために得意先の事業者へ現金で渡す販売奨励金は、交際費に当たらないとされています。一方で、同じ相手でも旅行や観劇に招待する費用は、原則として交際費に含まれます。「ごほうび」という中身は同じでも、現金か旅行かで分かれるわけです。
この記事では、販売奨励金は交際費になるかという、キャンペーンを組む前に知っておきたい線引きを、仮の3つの設計で判定します。国税庁の租税特別措置法関係通達「交際費等の範囲」と、タックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)にもとづく、2026年10月時点の一般的な話です。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
販売奨励金は交際費か、先に結論:「会社に現金」は外れ、「招待」は交際費
まず、答えを先に並べます。
- 販売促進の目的で、得意先である事業者(代理店の会社や個人事業主)に、販売奨励金として金銭や事業用の資産を渡す費用は、交際費に当たりません(措置法通達61の4(1)−7)。
- 得意先や代理店などを旅行・観劇に招待する費用は、原則として交際費です(同61の4(1)−15(4))。
- 旅行と一緒に、会議としての実体がある新製品説明会などを開いた場合は、会議に通常かかる費用だけは交際費から外せます(同61の4(1)−16)。
- 代理店の会社ではなく、そこで働く従業員個人に取引の謝礼を渡すと、原則として交際費です(同61の4(1)−15(9))。ただし例外があります。
つまり、ひとことで言えば、「事業者に、販売促進として、お金で」がいちばん素直な形です。
販売奨励金は交際費かを、通達で代理店の年末キャンペーンに置き換えると
元になる国税庁の通達を、キャンペーンの場面に置き換えて整理します。
販売奨励金(61の4(1)−7)
特定の地域の得意先である事業者に、販売促進のために、販売奨励金として金銭や事業用資産を渡す場合は、交際費に当たりません。売れた台数に応じて代理店の会社に振り込む報奨金は、ここに当てはめやすい形です。
旅行・観劇への招待(61の4(1)−15(4))
得意先、仕入先その他事業に関係のある人を旅行や観劇に招待する費用は、交際費の例として挙がっています。「売れたら招待」という条件をあらかじめ示していても、相手が事業者なら、この例に当たります。
招待と会議の組み合わせ(61の4(1)−16)
特約店などの販売業者を旅行に招待して、新製品の説明や販売技術の研究などの会議を開き、それが会議としての実体を備えていれば、会議に通常かかる費用は交際費に含めない扱いです。旅行の行事に伴う飲食は、旅行と一体のものとして扱うことになっています。
なお、通達が交際費に当たらないとしているのは「金銭又は事業用資産」です。代理店の業務に使わない品物を渡す場合は、この書き方に当てはまるかどうかを、事前に顧問税理士に確認しておくと安心です。
販売奨励金は交際費か、仮の3つの設計で判定してみます
従業員6人の、オフィス向けのコーヒーマシンを扱う会社(仮)が、代理店8社に向けて11月から12月の年末キャンペーンを組む例です。数字はすべて仮です。
設計1:販売台数に応じて現金で払う場合
10月末に、全代理店へ「11月1日から12月31日までに販売した台数1台につき1万円を、1月末に振り込みます」と書面で通知しました。結果、3社に合計25万円を振り込みました。
判定:販売促進の目的で、事業者に金銭で渡す販売奨励金です。交際費に当たらない費用として扱える可能性が高い形です。
設計2:上位の代理店を旅行に招待する場合
販売台数の上位2社の社長を、1泊2日の温泉旅行に招待しました。費用は合計30万円です。初日の午後に2時間、新製品の説明会を開きました。
判定:旅行への招待は、原則として交際費です。説明会が資料や議事のある会議としての実体を備えていれば、その会議に通常かかる費用(会議室代など)だけは交際費から外せる余地があります。宿泊や宴会、観光の分は交際費です。
設計3:代理店の従業員個人に直接渡す場合
代理店の会社ではなく、代理店で営業している従業員個人に、1台売るごとに5,000円を直接渡しました。
判定:取引先の従業員への謝礼として、原則は交際費です。ただし、その代理店がもっぱら自社の製品を扱っていて、従業員の外交販売の台数や金額に応じ、あらかじめ明らかにした基準で渡す場合は、交際費に当たらない扱いになります(61の4(1)−14)。その代わりに、所得税の源泉徴収が必要です。
なお、設計3の源泉徴収は見落としやすい点です。国税庁の所得税基本通達204−22の2でも、メーカーや卸売業者が、もっぱら自社製品を扱う特約店の従業員などに、取扱数量や取扱金額に応じてあらかじめ決めたところにより渡すお金は、外交員の報酬に当たるとされています。
ただし、販売奨励金は交際費かで間違えやすい3つのこと
例外と注意を並べます。
- 販売奨励金の名目で渡しても、その中身が、代理店がお客様を旅行や観劇に招待する費用の負担であれば、その負担に当たる部分は交際費です(61の4(1)−7のただし書き、61の4(1)−15(5))。名目ではなく、お金の使い道で見られます。
- 代理店になってもらうための運動費(接待など)は交際費の例に挙がっています。一方で、取引関係を結ぶために相手の事業者へ金銭や事業用資産を渡す費用は、交際費に当たりません(61の4(1)−15(2)とその注)。
「あらかじめ」と中小法人の枠
- 「あらかじめ」が大事です。設計1も設計3も、条件を先に示してから渡す形にしています。売れたあとに気分で金額を決めて包むと、販売奨励金としての説明がしにくくなります。
また、交際費になっても、全部が税金の上で不利になるわけではありません。国税庁のタックスアンサー5265番によれば、期末の資本金が1億円以下などの中小法人は、交際費を年800万円(事業年度が12か月の場合)まで損金に算入できる計算を選べます。招待旅行を年に1回する程度なら、枠の中に収まる会社も多いはずです。それでも、科目を正しく分けておくと、決算のときに顧問税理士との確認が早く終わります。
飲食を伴う接待と会議費の分け方は、こちらの記事にあります。
社長の焼肉は会議費?交際費?税務署が見ているのは「肉」ではなく「メモ」だった
販売奨励金は交際費かで迷う前の、今日からできる最初の一歩:キャンペーンの「通知文」を先に作る
まず、年末キャンペーンを組むなら、中身を決める前に、代理店へ送る通知文の下書きを作ってみてください。入れておきたいのは次の5つです。
- 1期間(例:11月1日から12月31日まで)
- 2対象(代理店の会社あてか、従業員個人あてか)
- 3条件(販売台数、販売金額など、あとから数えられるもの)
- 4渡すもの(金銭か、旅行か)と、その基準
- 5支払いや実施の時期
そして、この5つを書き出すと、交際費になりそうな部分が自然に浮かびます。代理店の会社あてに金銭で、という形がいちばん説明しやすいはずです。
また、通知文は、代理店との約束ごとを文字にする練習にもなります。代理店契約に何を書いておくかは、こちらの記事で整理しています。
「代理店契約」のはずが、中身は「販売店」だった?契約の3つの型と、決めておくこと
最後に、キャンペーンが終わったら、報奨金を受け取った代理店と、受け取れなかった代理店の違いを1行ずつ書き出してみてください。来年の代理店支援の、いちばん具体的な材料になります。
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※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。