年末に向けて、「古いコーヒーメーカーをお持ちいただくと、新品が2,000円引き」というチラシを考えている雑貨店があるとします(仮の例です)。家電量販店でよく見るあれです。ところが、知り合いから「下取りって、古物商の許可が要るんじゃないの?」と言われて、手が止まりました。
答えは、下取りの「やり方」で変わります。新品の値段から一律に差し引くだけなら、許可は要りません。持ってきた品を1点ずつ見て、「これは状態がいいから3,000円」と値段をつけた瞬間に、それは買取になり、古物商の許可が必要になります。同じ「下取り」という言葉でも、中身が違うということです。
この記事では、警察庁の解釈基準にある下取りの線引き、フリマで仕入れた「新品未使用品」の扱い、許可が要らない場合、許可を取ったあとの義務を整理します。2026年10月時点のルールです。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
先に結論:一律の値引きなら不要、査定したら許可が必要
古物を買い取って売る商売を続けるには、主な営業所を管轄する都道府県の公安委員会から、古物商の許可を受けます(申請の窓口は警察署です)。下取りも、本来は古物の買取りの一種です。
ただし、警察庁の「古物営業法等の解釈基準」(令和8年5月14日付け)は、新品を売る業者の下取りが「サービスとして行う値引き」と言えるときは、古物営業に当たらないとしています。そのための要件は、次の3つをすべて満たすことです。
- 1経理の形:下取りした品の代金としてお金を払うのではなく、売る新品の本来の売価から一定の金額を差し引く形で処理していること
- 2当事者の意思:下取りが、お客様へのサービスの一環だという意思があること
- 3値段の決め方:下取りする1点ごとの市場価格を考えないこと
さらに、年式や型式、傷の有無で下取り額に差をつけると、3の要件を満たさないとされています。冒頭のチラシなら、「どんな古いコーヒーメーカーでも、新品から一律2,000円引き」は値引きの側です。「状態を見て最大5,000円」は買取の側です。
判定してみます:年末の下取り企画4つ
従業員4人の生活雑貨店が、年末に次の4つを考えているとします(すべて仮の例です)。
- 企画1「古い鍋をお持ちの方、新しい鍋が一律1,000円引き」:新品の売価から一律に引くので、値引きの側です。許可は不要と考えられます
- 企画2「ブランドの鍋は査定して最大3,000円引き、ほかは500円引き」:ブランドや状態で差をつけるので、実質的な要件を満たしません。許可が必要な側です
- 企画3「古いバッグをお持ちいただくと、その場で現金500円」:新品の販売とセットではなく、古物の代金を払っています。許可が必要な側です
- 企画4「古い鍋と引き換えに、次回の鍋の購入に使える1,000円券」:新品を同時に買わない場合は、要件が厳しくなります。持ってきた本人だけが使えて、同じ種類の品を買うときに使える券なら、新品の販売に伴う下取りとして扱われます
企画4は見落としやすいところです。「どの商品にも使えるポイント1,000円分」にすると、この条件から外れてきます。チラシの文言ひとつで判定が変わるので、迷ったら刷る前に、主な営業所を管轄する警察署の生活安全担当に相談するのが早道です。
もう1つの注意は、引き取った古い品の行き先です。店で捨てる場合は、家庭ごみではなく、事業のごみとしての処理が必要になります。引き取った品を中古品として売ることまで考えているなら、その売り方で許可が要るかどうかも、あわせて警察署に確認しておくと安心です。
「新品未使用」でも古物になる場合
下取り以外で、モノを売る小さな会社がつまずきやすいのが「新品」の扱いです。
- 問屋やメーカーから新品を仕入れて売る:古物ではないので、許可は不要です
- フリマアプリやリサイクルショップで「新品未使用」を買い、自分の店で売る:古物です。解釈基準では、小売店から一度でも一般の消費者の手に渡った物は、未使用でも古物に当たるとされています。これを商売として繰り返すなら許可が必要です
- お客様から「いただき物で使わないので」と未開封の食器セットを買い取る:贈答品も一度消費者に渡った物なので、古物の買取りです
「未開封だから新品でしょう」という感覚は、法律の上では通じません。仕入れ先が事業者か、一般の人かで分けて考えると、迷いが減ります。
許可が要らない場合と、取ったあとの義務
大阪府警や熊本県警の案内では、次のような場合は許可が要らないとされています。
- 自分で使っていた物や、使うつもりで買った物を売る(ただし、実際は転売目的で仕入れていれば許可が必要)
- 無償でもらった物や、処分の手数料をもらって引き取った物を売る
- 自分が売った相手から、その品を買い戻す(その相手からさらに転売された先から買い戻す場合は必要)
- 自分で海外から買い付けて輸入した物を売る(ほかの業者が輸入した中古品を国内で仕入れる場合は必要)
許可を取る場合、申請は主な営業所を管轄する警察署で、熊本県警の案内では手数料は19,000円、受付からおおむね40日で結果が出るとされています。許可なしで古物の売買を続けると、古物営業法31条の罰則の対象になります。
許可を取ったあとは、次の義務があります(福島県警の案内より)。
- 買い取るときに、相手の住所・氏名・職業・年齢を確かめる
- 取引の日付、品目と数量、特徴、相手の情報、確認の方法を記録する
- 記録は、最後に記録した日から3年間、営業所に備え付ける
- 店に標識を掲示し、ネットで売るなら許可証番号などをサイトに載せる
買取の総額が1万円未満なら、確認と記録は原則いりません。ただし、美術品類、時計・宝飾品類、自動車、自動二輪車と原動機付自転車は、1万円未満でも免除されません。ゲームソフトや音楽ソフト、書籍などにも、記録について別の扱いがある品目があるので、扱う前に警察署の案内で確認してください。
最初の一歩:チラシの「下取り」を一行で言い換えます
年末の下取りは、来店のきっかけを作る営業の道具です。ただ、許可の話で止まると、企画そのものが流れてしまいます。そこで、チラシを作る前に、自分の下取りを一行で言い換えてみてください。
「何を持ってきても、新品が○円引き」と言い換えられるなら、値引きの側です。「品物を見て、値段を決めます」になるなら、買取の側です。後者を本気でやるなら、許可を取ったうえで、中古品の売り場まで含めた商売として設計し直すことになります。
下取りで来た古い品は、お客様が「いま何を使っていて、何に困っているか」の手がかりでもあります。下取りした品の種類と数を、1か月だけでもノートに残しておくと、次に仕入れる商品の当たりがつけやすくなります。仕入れた商品が売れるまでのお金の動きは、こちらの記事にあります。
仕入れた商品は「売れるまで」経費にならない。売れ残り在庫のホントのルール
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):警察庁、自治体、自治体(2)、自治体(3)、自治体(4)、自治体(5)
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。