12月、仕事納めの少し前。社長が白い封筒を4つ用意して、表に筆ペンで「寸志」と書きます。ボーナスと呼ぶほどの額ではないけれど、今年もよく頑張ってくれたお礼に。そんな気持ちを込めた、小さな会社の冬の風物詩です。
ところが、この封筒には落とし穴があります。社会保険の世界では、名前が「寸志」でも「ボーナス」でも「金一封」でも、年3回以下で支給するものは、原則として賞与として扱われます。そして賞与を払ったら、支給日から5日以内に「被保険者賞与支払届」を出す決まりがあります。気持ちを込めた封筒ほど、手続きは忘れられがちです。
この記事では、寸志の社会保険料の計算のしかた、届出の期限、寸志に当たらないもの、退職する人に払うときの注意まで、2026年10月時点の日本年金機構の案内にもとづいて整理します。冬の支給日の前に、5分だけ目を通しておいてください。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
寸志の社会保険料、先に結論:寸志も「賞与」。届出は支給日から5日以内です
日本年金機構の説明では、社会保険の賞与とは、賃金、給料、手当など、いかなる名称であるかを問わず、労働の対償として受けるもののうち、年3回以下で支給されるものをいいます。つまり、封筒に何と書いたかは関係ありません。
寸志の社会保険料で押さえておきたいのは、次の4点です。
- 名前に関係なく、年3回以下の支給なら賞与として社会保険料がかかります
- 保険料は、税引き前の総支給額から1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」に、保険料率を掛けて計算します
- 保険料は会社と本人で半分ずつ負担し、本人の分は賞与から差し引けます
- 支給した日から5日以内に「被保険者賞与支払届」を、事務センターか管轄の年金事務所に出します(電子申請、郵送、窓口などで提出できます)
社長1人の会社と年4回以上の支給
社長1人の会社でも、法人なら社会保険に入る決まりです。また、社長自身に年3回以下の賞与を出す場合も、同じ届出の対象になります。社会保険の入り方の基本は、こちらの記事にあります。
社長1人の会社でも、社会保険は入る?「法人」だと答えが決まっています
反対に、年4回以上支給するものは、賞与ではなく毎月の報酬の側(標準報酬月額)に含めて考えます。「毎季節ごとに寸志を出す」ような会社は、回数を数えておくと安心です。
寸志の社会保険料を、仮の3万5,500円で計算してみます
そこで、数字で見ると、イメージがつかみやすくなります。たとえば、従業員4人の設計事務所が、12月10日に1人3万5,500円の寸志を出す場合です(金額は仮の例です)。
- 1標準賞与額を出す:3万5,500円の1,000円未満を切り捨てて、3万5,000円
- 2厚生年金保険料を出す:厚生年金の保険料率は18.3%で固定されています。3万5,000円×18.3%=6,405円
- 3半分に分ける:会社と本人が約3,200円ずつ負担します
- 4健康保険料(40歳以上65歳未満の人は介護保険料も)を足す:料率は加入している協会けんぽの都道府県支部や健康保険組合ごとに違うので、自社の料率表で計算します
寸志の社会保険料、会社負担の合計
厚生年金だけで、1人あたり会社負担が約3,200円、4人で約1万2,800円です。さらに、これに健康保険料の会社負担がのります。寸志の予算を組むとき、封筒の中身だけで計算していると、あとから「あれ、思ったより出ていく」となります。
寸志の手取りは3万5,500円より少なくなります
本人の手取りも、3万5,500円そのままではありません。社会保険料の本人負担に加えて、雇用保険料と所得税も差し引きます。雇用保険では、賞与も保険料の計算の対象になる賃金です(労働局の賃金早見表)。所得税は、毎月の給料の表とは別の「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使います。なお、国税庁の令和8年分の源泉徴収税額表に入っています。
「せっかくの寸志が、引かれて減るのは気の毒だ」と感じるかもしれません。ただ、厚生年金の保険料を納めた分は、将来の年金額の計算にも反映されます。手渡しのときに「保険料などを引いた額です」と一言添えておくと、封筒を開けたときの小さながっかりを防げます。
寸志に当たらないもの、退職する人の寸志
ここからが、検索した人がいちばん迷うところです。
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まず、すべての「お金を渡すこと」が賞与になるわけではありません。日本年金機構の事例集では、次のような整理がされています。
- 大入袋:労働の対償であっても、常態として受けるものではないため、原則として報酬等に含まれない例として挙がっています
- 見舞金、結婚祝い金、餞別金:恩恵的な支給として、原則として報酬等に該当しない例です
- ただし、労働協約などにもとづいて経常的に支払う見舞金は、報酬等に当たる例があります
事例集では、名称だけでなく実態に合わせて判断する、とされています。「寸志という名前をやめて大入袋と書けば、保険料はかからない」という話ではありません。つまり、年末に業績に応じて全員に配るお金は、名前を変えても賞与と見られるのが普通です。なお、迷ったら、年金事務所に聞くのが早道です。
退職月に払う寸志の扱い
次に、退職する人の寸志です。社会保険料は、資格を取った月から、資格を失った日(退職日の翌日)が属する月の前月まで発生します。日本年金機構は、退職月に支給する賞与は、月末に退職する場合を除き、保険料控除の対象にならない、としています。
たとえば、12月15日に退職する人に、12月10日に寸志を払った場合は、その寸志から社会保険料は差し引きません。12月31日に退職する人なら、12月分まで被保険者なので、通常どおり保険料がかかります。同じ12月の寸志でも、退職日しだいで計算が変わるので、年末に辞める人がいる会社は注意が必要です。
寸志の社会保険料の上限
もう一つ、上限の話もあります。標準賞与額には上限があり、健康保険は年度の累計で573万円、厚生年金は1か月150万円です。小さな会社の寸志で上限に届くことはまずありませんが、社長自身に大きな賞与を出すときは、この上限が関わってきます。
「払わなかった年」も届出が要ることがあります
実は、意外と知られていないのが、払わなかったときの手続きです。
会社は、社会保険に加入するときなどに「賞与支払予定月」を日本年金機構に登録しています。その予定月に、誰にも賞与を払わなかった場合は、賞与支払届の代わりに「賞与不支給報告書」を出すことになっています。また、予定月の翌月までに届出がないと、翌々月に催告状が送られてきます。
「今年の冬は業績が厳しくて、寸志を見送った」。そんな年に、年明けに催告状が届くと、気持ちの面でもなかなかこたえます。登録してある予定月がいつなのか、一度確認しておくと安心です。
寸志を出す日の手順チェックリスト
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最後に、冬の寸志をめぐる手順を、チェックリストにしておきます。
- 1支給日を決める(例:12月10日)
- 21人ずつ、標準賞与額(1,000円未満切り捨て)と保険料を計算する
- 3雇用保険料と所得税(賞与の算出率の表)も差し引いて、手取りを出す
- 4年内に退職する人がいれば、退職日が月末かどうかを確認する
- 5支給日から5日以内(例:12月15日まで)に、被保険者賞与支払届を出す
- 6登録してある賞与支払予定月に払わない場合は、賞与不支給報告書を出す
会社負担分の保険料は、ふだんの社会保険料と同じように、まとめて納付することになります。寸志を出した月は、翌月の引き落とし額が増えると思っておくと、資金繰りで慌てずに済みます。
寸志の社会保険料を忘れない最初の一歩:カレンダーに「支給日+5日」
まず、今年の冬の寸志を出すつもりなら、手帳かカレンダーに、支給日と、その5日後の「賞与支払届」を、今日のうちに並べて書き込んでみてください。給与計算ソフトや社会保険労務士に頼んでいる会社も、「寸志を出すこと」を伝え忘れると、届出は動きません。
寸志は、金額よりも、渡し方と一言で効き方が変わります。とくに営業の担当者には、「あの取引先を開拓してくれた分」のように、何に対するお礼なのかを具体的に添えると、翌年の動きが変わりやすくなります。人が辞めない仕組みづくりは、こちらの記事でも書いています。
営業が辞めない会社の設計。ランチ補助7,500円と有給5日を定着に変える手順
気持ちを込めた封筒が、あとで催告状に化けないように。手続きまで含めて、気持ちよく年を越してください。
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お金の学び(ウハウハ高等学校):ウハウハ高等学校の新着コラム
営業・販路のコラム:コミッターズ コラム
筆者の記事:川口忠大のnote
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参考(外部サイト):日本年金機構、日本年金機構(2)、日本年金機構(3)、日本年金機構(4)、日本年金機構(5)、東京労働局
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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