「年内いっぱいで辞めさせてください」。11月に入ると、小さな会社でもこんな相談がぽつぽつ届きます。退職日は、きりよく12月31日。社長は「お疲れさま」と言いながら、最後の給料の明細を作ります。
すると、社会保険料の欄がいつもの倍になっています。給与ソフトの故障ではありません。月末に退職する人は、最後の給料から社会保険料を2か月分引くことがある、と日本年金機構が案内しているとおりの動きです。退職する本人から「なんで今月だけこんなに引かれているんですか」と聞かれて、言葉に詰まる社長は少なくありません。
この記事では、月末退職の社会保険料について、2026年10月時点の日本年金機構と協会けんぽの案内、厚生年金保険法にもとづいて、なぜ2か月分になるのか、12月30日退職だとどう変わるのか、会社が退職後5日以内に出す届出は何か、を仮の数字で整理します。特に、年末に辞める人がいる会社は、11月のうちに読んでおくと慌てずに済みます。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
月末退職の社会保険料、先に結論:2か月分になるのは「前月分を引く」ルールのせいです
まず、理由は、2つのルールの組み合わせです。
- 社会保険料は、資格を取った月から、資格を失った日の属する月の前月まで発生します
- 資格を失う日(資格喪失日)は、退職日の当日ではなく、退職日の翌日です
12月31日に退職すると、資格喪失日は翌年の1月1日です。そのため、喪失日の属する月は1月なので、その前月の12月分まで保険料がかかります。
月末退職の社会保険料が2か月分になる仕組み
一方、会社が給料から引けるのは、原則として「前月分」の保険料です。厚生年金保険法84条で、事業主は前月の標準報酬月額にかかる保険料を報酬から控除できる、とされています。12月25日に払う給料からは、ふだんどおり11月分を引きます。そこに、退職月である12月分ものってきます。
同じ84条では、使用されなくなった場合は「前月及びその月」の保険料を控除できる、と書かれています。日本年金機構も、月末に退職した場合は、退職月の前月と退職月の2か月分の保険料を、退職月の給与から控除できると案内しています。2か月分は、払いすぎではありません。辞めたあとは来月の給料で12月分を引く機会がないので、最後にまとめて引く仕組みです。
社会保険の加入の基本は、こちらの記事にあります。
社長1人の会社でも、社会保険は入る?「法人」だと答えが決まっています
月末退職の社会保険料を、12月31日退職と12月30日退職の仮の数字で比べます
たとえば、従業員5人の設備工事会社で、標準報酬月額26万円の社員が年内に辞めるとします(数字は仮の例です)。厚生年金の保険料率は18.3%で、会社と本人が半分ずつ負担します。
26万円×18.3%=4万7,580円。本人負担はその半分の2万3,790円です。
- 112月31日に退職する場合:資格喪失日は1月1日。保険料は12月分まで発生します。12月の給料から、11月分と12月分の2か月分、厚生年金だけで4万7,580円を本人負担として引きます
- 212月30日に退職する場合:資格喪失日は12月31日。喪失日の属する月が12月なので、保険料は11月分までです。12月の給料から引くのは、11月分の2万3,790円だけです
健康保険料(40歳以上65歳未満の人は介護保険料も)も、同じ考え方で月数が決まります。料率は加入している協会けんぽの都道府県支部や健康保険組合ごとに違うので、自社の料率表で計算してください。
30日に辞めたほうが得、とは限りません
数字だけ見ると「30日に辞めたほうが得」に見えます。ところが、そう単純ではありません。日本年金機構の案内では、会社を辞めて次の会社にすぐ入らない人は、国民年金の第1号被保険者になり、その月の分から国民年金保険料を納めます。12月30日に辞めた人は、12月分を国民年金で自分で払うことになり、健康保険も、12月31日から国民健康保険などに入る手続きが要ります。
さらに、厚生年金の加入期間は月単位で数えるので、30日退職だと12月は厚生年金の期間に入りません。つまり、将来の年金額の計算にも響きます。なお、退職日は本人が決めることです。会社としては「30日にしたほうが得ですよ」と勧めるのではなく、違いを説明できるようにしておくのが無難です。
1月1日に別の会社へ入る人の場合
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1月1日に別の会社へ入社する人の場合、12月31日退職なら1日も空きません。12月30日退職だと、12月31日の1日のために国民年金と国民健康保険などの手続きが必要になります。
年末退職で会社がやる届出は「5日」と「10日」
では、保険料の次は、届出です。年末年始の休みと重なるので、ここがいちばん忘れやすいところです。
- 健康保険・厚生年金保険:被保険者資格喪失届を、事実発生から5日以内に、事務センターか管轄の年金事務所へ提出します(電子申請、郵送、窓口持参のどれでも出せます)
- 協会けんぽの資格確認書などを交付している場合は、回収して届出に添えます
- 雇用保険:雇用保険被保険者資格喪失届を、退職の翌日から10日以内に、事業所を管轄するハローワークへ提出します。原則として離職証明書も一緒に出し、交付された離職票を本人にすみやかに渡します
12月31日退職だと、資格喪失日は1月1日です。つまり、そこから5日以内なので、年明けの仕事始めに真っ先に片づける仕事になります。なお、電子申請なら年末年始でも準備しておけるので、休み前に書類だけ作っておくと楽です。
離職票が遅れるとどうなるか
つまり、離職票が遅れると、本人の失業給付の手続きが進まなくなります。北海道のハローワークの案内でも、提出の遅れで離職者が不利益を受けるおそれがある、と書かれています。年明けに「離職票はまだですか」と電話をもらうのは、気まずいものです。
ただし:入社した月に辞めた人と、退職後の健康保険
では、例外も押さえておきます。
1つ目は、入社した月にそのまま辞めた人です。日本年金機構の案内では、資格を取った月の月末より前に資格を失った場合でも、厚生年金保険料の納付が必要です。ただし、その月にさらに厚生年金や国民年金(第2号を除く)の資格を取った場合は、先に喪失した分の厚生年金保険料は不要になり、年金事務所から会社あてに還付のお知らせが届きます。なお、本人負担分は、会社から本人に返します。特に、試用期間中にすぐ辞めた人がいる会社は、この還付の流れを覚えておくと安心です。
退職後の健康保険の3つの道
2つ目は、退職後の健康保険です。まず、本人が選べる道は、主に次の3つです。
- 家族の健康保険の被扶養者になる
- 住所地の市区町村で国民健康保険に入る
- 協会けんぽの任意継続被保険者になる
協会けんぽの任意継続は、退職日までに被保険者期間が継続して2か月以上あることが条件で、退職日の翌日から20日以内に申し出ます。また、加入できるのは2年間です。在職中は会社が半分負担していた保険料を、全額自分で払うことになります。国民健康保険に入るときに資格喪失日の証明が必要になったら、日本年金機構に確認通知書の交付を請求する方法もあります。
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最後の面談で、この3つを紙1枚にして渡すだけでも、辞めていく人の不安はかなり減ります。
月末退職の社会保険料の最初の一歩:退職日を聞いたら「暦」を書く
まず、退職の相談を受けたら、その場でメモに次の4行を書いてみてください。
- 1退職日(例:12月31日)
- 2資格喪失日(退職日の翌日。例:1月1日)
- 3保険料がかかる最後の月(喪失日の前月。例:12月分)
- 4最後の給料から引く月数(月末退職なら2か月分になることがある)
月末退職の社会保険料は、この4行で説明できます。この4行を本人に見せて説明しておけば、最後の明細を見たときの「なんで?」がなくなります。また、給与計算を外に頼んでいる会社は、退職日が決まった時点で、すぐ担当者に伝えてください。初めて人を雇う前に整えておきたい社会保険の全体像は、こちらの記事にまとめています。
初めての採用の前に整える3つ。就業規則・社会保険・有給をまとめて確認する完全ガイド
実は、辞めていく人は、取引先や次の職場で、あなたの会社のことを話します。最後の手続きがきれいな会社は、その一言で評判を落としません。また、営業の紹介が、元社員の口から来ることもあります。最後の給料明細まで、気持ちよく渡して送り出してください。
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筆者の記事:川口忠大のnote
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導入先を比べる:系統用蓄電池メーカー比較|法人が製品・導入支援・保守を同じ条件で見る方法
お金の面を読む:系統用蓄電池の充電コストを読む|調達契約と託送料金
情報サイトのトップ:ENERGY BANK(系統用蓄電池の情報サイト)
運営元:コミッターズ
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参考(外部サイト):日本年金機構、日本年金機構(2)、日本年金機構(3)、日本年金機構(4)、www.kyoukaikenpo.or.jp、東京労働局
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。
会社の現場の工夫や取り組みは、みんなの企業新聞の記事「マッチングサイトを継続運用する仕組みの作り方」でも紹介しています。あわせてご覧ください。
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