最初の1人を採用した翌月から、社長の仕事が営業から手続きと相談対応に変わってしまう会社があります。
原因は人柄や求人の出し方ではなく、採用の前に3つの土台を決めていなかったことです。
この記事では、就業規則・社会保険・有給の3つを、採用前にどこまで整えればよいかをチェック付きで持ち帰っていただけます。
野村證券のリテール営業で全国約7,000名中1位を4度。いまは代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社「コミッターズ」を経営しています。川口です。
人を入れて売上を伸ばすには、土台が先です
人を増やせば売上が伸びると、営業の世界ではつい考えがちです。しかし、入れた人数と、動く人数は別の話です。
私は起業後、副業の営業マンを約300人集めたことがあります。実際に動いたのは約10人でした。集めることに力を使って、動いてもらう設計が足りなかったのです。野村證券の新人時代も、営業の同期は約500人いて、1年で約3割が辞めました。
採用は、入れて終わりではありません。働く条件が明確で、休みが取れて、保険に守られていることが土台になり、人は定着し、営業の戦力になっていきます。ここから、3つの土台を順番に見ていきます。
3つに入る前に、一つだけ宿題があります。採用する人に何を任せるのかを、一行で書いてみてください。たとえば「既存のお客様への連絡と見積もりの準備を任せる」のように書きます。任せる仕事が決まると、働く時間や休みの設計、賃金の決め方も具体的になります。なお、法律や制度の細かい判断は、社会保険労務士など専門家にご相談ください。

土台1:就業規則は「10人」が一つの線です
労働基準法では、常時10人以上の労働者を使う事業場は、就業規則を作成して、労働基準監督署に届け出る必要があります。厚生労働省の資料では、この人数には、パートなどの正社員以外の労働者も、原則として含まれるとされています。作成や変更のときは、労働者の代表の意見を聴くことも求められています。
では、従業員が9人以下の会社は、何も要らないのでしょうか。作成の義務はありませんが、「なくても困らない」という意味ではありません。厚生労働省の資料でも、10人未満の事業場は、労働条件を書面で通知する必要があるとされています。
就業規則に書く項目は、厚生労働省の資料で、次のように整理されています。
- 1どの会社でも書く項目は、始業・終業の時刻、休憩、休日、休暇、賃金の決め方・計算・支払いの方法、締め日と支払日、昇給、退職(解雇の事由を含む)です。
- 2定めるなら書く項目は、退職手当、賞与、安全衛生、職業訓練、表彰や制裁などです。
営業の仕事では、賞与や報奨の決め方が、働く人の意欲に直結します。決めたなら、書いておくと、後からの行き違いを防げます。10人未満の会社にとっては、まず「労働条件を紙に残す」ことが現実的な第一歩になります。詳しい整理は、令和の総合商社の次の記事にあります。
従業員9人の会社に就業規則は必要?「10人」の壁と、なくて困る3つの場面
土台2:社会保険は「社長1人」でも法人なら入ります
日本年金機構の案内では、株式会社などの法人の事業所は、事業主のみの場合を含めて、健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所とされています。つまり、社長1人の会社でも、法人であれば加入が必要です。従業員を雇う前に、すでに会社として加入しているかを確認します。
新しく適用を受けるときの手続きにも、期限があります。事務センターまたは年金事務所へ、事実の発生から5日以内に、新規適用届を事業主が提出します。法人の場合は、登記簿謄本(提出日から90日以内に発行されたもの)などを添えます。
採用の計画を立てるときは、給与のほかに、会社が負担する社会保険料の分も見積もりに入れます。具体的な金額や、誰がいつから被保険者になるかは、年金事務所や社会保険労務士に確認してください。詳しくは、令和の総合商社の次の記事にあります。
社長1人の会社でも、社会保険は入る?「法人」だと答えが決まっています
採用前の整理に迷う方は、この記事の末尾にある無料相談でも、販路づくりと人の採用の順番を一緒に整理できます。

土台3:有給は「年5日」を会社が取らせます
厚生労働省の案内によると、年次有給休暇が年10日以上付与される労働者には、会社が年5日を取得させる義務があります。パートやシフト勤務の人でも、10日以上付与されるなら対象です。社員1人の会社も対象になります。
会社が日にちを決めて取得させる場合は、労働者の希望を聞いたうえで、時季を指定します。労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作り、3年間保存します。時季を指定する方法をとるなら、対象となる労働者の範囲や指定の方法を、就業規則に書く必要があります。
営業の仕事は、繁閑の差が大きく、休みが後回しになりがちです。だからこそ、年の初めに、営業の山と谷を見ながら、取得してもらう日を先にカレンダーへ置きます。休みの取りやすさは、働く人が会社を選ぶときの安心材料の一つになります。詳しくは、令和の総合商社の次の記事にあります。
社員が1人でも、有給5日は「会社の義務」。取らせないと罰則の対象になる地味に怖い話
採用前に確認する6つのチェック
- 1就業規則を作る人数かどうか、今の人数と近いうちの人数で確認します。
- 210人未満なら、労働条件を書面で通知する書式を用意します。
- 3会社として社会保険に加入済みかどうか、年金事務所に確認します。
- 4社会保険料の会社負担分を、採用計画の見積もりに入れます。
- 5有給の管理簿を、入社日が決まる前に作っておきます。
- 6営業の繁閑を見て、取得してもらう日を先にカレンダーへ置きます。

よくある疑問に答えます
質問:従業員が9人なら、就業規則は作らなくていいですか。
答え:作成の義務はありませんが、労働条件を書面で通知することは必要です。後からの行き違いを減らすためにも、まず条件を紙に残す形を整えます。
質問:パートで採用するときも、有給の対象になりますか。
答え:年10日以上付与される人は、パートやシフト勤務でも対象になります。付与日数は働き方で変わるので、個別の判断は社会保険労務士へ確認してください。
質問:社長1人の会社は、まだ何もしなくていいですか。
答え:法人であれば、社長1人でも社会保険は強制適用の対象です。まず、すでに加入しているかを確認してください。
経営の土台を整える読み物は、令和の総合商社の人事・労務のコーナーにまとまっています。
才能がなくても、土台と設計で人は育ちます
採用は、売上を伸ばす手段の一つです。ただし、土台が整っていないと、人を入れるほど社長の時間が奪われます。私の失敗でも、集めた人数より、動いてもらう設計が足りませんでした。
才能や学歴やコネがなくても、量と設計で営業は変えられます。それは人を入れる場面でも同じです。まず今日、6つのチェックのうち、いちばん手が止まっている1つから進めてください。
コミッターズは、代理店開拓で中小企業の販路をつくる会社です。本気で販路を作りたい経営者の方には、60分の無料相談で設計図をお出しします。
参考(外部サイト):東京労働局、日本年金機構、日本年金機構(2)、厚生労働省
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。