「うちは9人。就業規則って、10人からって聞いたけど?」。そのとおりです。ただし、「作らなくていい」と「なくても困らない」は、まったく別の話です。
先に結論:義務は「常時10人以上」から
- 常時10人以上の労働者を使う会社は、就業規則を作って労働基準監督署に届け出る義務があります。
- 人数に数えるのは正社員だけではありません。パート・アルバイトも含めた労働者です。役員は原則として数えません。
- 9人以下なら義務はありません。でも作ってはいけないわけではなく、むしろ作っておく価値が大きいのです。
「常時10人」って、どう数える?
繁忙期だけ増えるアルバイトは別として、いつもそのくらいの人数がいるなら「常時」です。たとえば、こんな具合です。
- 正社員6人+パート3人+アルバイト2人 = 11人 → 義務あり
- 正社員5人+役員2人+パート3人 = 労働者8人 → 義務なし(役員は数えない)
役員でも、社員の仕事を兼ねている「兼務役員」は、労働者として数えるケースがあります。ギリギリの人数なら、労基署や社労士さんに確認しましょう。
9人以下でも「ないと困る」3つの場面
- 場面1:ルール違反の人が出たとき。懲戒処分は、あらかじめ決めたルールがないと、実際には難しいのが一般的です。
- 場面2:休職・休日・賃金の締め日などを聞かれたとき。口約束だと、社員ごとに記憶が違ってモメます。
- 場面3:助成金を使いたいとき。一部の助成金は、就業規則の整備が申請の条件になることがあります。
- 休職・退職のルール
- SNS・副業などの服務規律
- 賃金の締め日と支払日
- 懲戒の種類と手続き
- 口約束だけの残業ルール
- 「前の人はOKだった」という言い分
- 辞めるときの手続きの食い違い
作るときの手順
- 1内容を決めて、文書にまとめる
- 2労働者の過半数を代表する人の意見を聞く(意見書をもらう)
- 310人以上なら、労働基準監督署に届け出る
- 4社員がいつでも見られるように、周知する
見落としがちなのが、最後の周知です。作っただけで社員が見られない状態だと、効力に疑問が出ます。共有フォルダに置く、紙で配るなど、見られる形にしておきましょう。
厚生労働省が「モデル就業規則」を公開しています。ただ、そのまま使うと自社の実態とズレがち。休憩・残業・休日のところは、必ず自社の運用に合わせて直してください。
就業規則に、最低限書くこと
就業規則には、必ず書かなければならない項目があります。大きく3つです。
- 働く時間まわり:始業・終業の時刻、休憩、休日、休暇
- お金まわり:賃金の決め方・計算方法・支払いの方法、締め日と支払日、昇給
- 辞めるとき:退職に関すること(解雇の理由を含みます)
このほか、退職金・賞与・懲戒など、会社でルールを決めるなら書く項目もあります。小さな会社なら、まずは上の3つをきちんと書くところから始めましょう。
目次の例:小さな会社なら、この7章
- 総則(目的、適用される人)
- 採用・試用期間
- 勤務時間・休憩・休日・休暇
- 賃金
- 服務規律(してはいけないこと)
- 懲戒
- 退職・解雇
最近は、SNSの使い方、情報漏えい、副業、テレワークのルールも入れておく会社が増えています。
就業規則と、雇用契約書の関係
就業規則より悪い条件を、個別の雇用契約で決めても、その部分は無効になり、就業規則の基準が適用されます。逆に、就業規則より良い条件の個別契約は、有効です。入社時に社長が口頭で約束した条件も、あとで問題になりやすいので、書面にしておきましょう。「業務委託」でも労働者と見られる場合があります。くわしくは労働者かどうかの記事で。
よくある質問
Q. 9人以下でも、労働基準監督署に届出する?
A. 届出の義務はありません。ただし、作ったら、できれば社員の意見も聞き、全員が見られるようにしておく(周知する)ことが大切です。
Q. 内容を変えるときは?
A. 社員にとって不利になる変更は、慎重に進める必要があります。説明をして、理解を得ながら進めるのが基本です。
懲戒を決めるときの「上限」
就業規則で「減給」を懲戒のひとつにするときは、法律に上限があります。1回の減給は、平均賃金の1日分の半額まで。また、1回の給料支払い期にまとめて引ける総額は、その期の賃金総額の10分の1までです。たとえば、平均賃金が1日1万円なら、1回の減給は5,000円まで。月給30万円なら、1か月の減給の合計は3万円までです。
「遅刻したから、給料を半分にする」といった決め方はできません。書いておけば何でもできるわけではない、という点は覚えておきましょう。
人数が増える前に、準備しておくこと
- 8〜9人になったら、就業規則の作成を始める(10人になってから慌てない)
- 労働者の代表を、誰にするか決めておく(会社が一方的に指名するのではなく、選び方を決める)
- 賃金の締め日・支払日、残業の扱いを、今のうちに書き出しておく
作ったあとが大事:「見られる場所」に置く
就業規則は、作っただけでは意味がありません。従業員がいつでも見られる状態にしておくことが大切です。紙で綴じて事務所に置く、社内のクラウドに保存して場所を全員に伝える。どちらでも構いません。
法律が変わったら、見直す
有給休暇、育児・介護休業、ハラスメント防止など、働くルールはたびたび変わります。年に1回、決算のタイミングなどに、「うちの決まりは今の法律に合っているか」を見直す習慣をつけておくと安心です。
最初は、ひな形を土台にして構いません
ゼロから作る必要はありません。公的機関が公開しているモデルを土台にして、自社の実態に合わせて直していく方法が現実的です。大切なのは、実際の運用と、書いてあることが食い違わないことです。
まとめ:9人でも、作る価値はある
10人未満なら義務はありませんが、トラブルのときに「会社の決まり」を示せるのは大きな安心です。人が増えて10人になる前に、まず最小限のものを1冊作っておく。それが、小さな会社のちょうどいい備えです。
※一般的な解説です。個別のケースは顧問税理士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。